CulCul 7月号 2013 page 4/16

CulCul 7月号 2013

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概要:
北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4清張が「私の一冊」に挙げるのが、木村毅『小説研究十六講』です。小説を本気で勉強したり、小説家になろうとは思っていなかった。だが、この本をよんだあと、急に小説を書いてみたい気になった。それほどこの本は私に強い感銘を与えた。どこに感動したかというと、これは大へん小説というものを科学的に分析して書かれてあるように思った。いま、よみ返しても、この感想はあまり変わらない。それに著者の記述が学者みたいに四角ばらず、その上、適当にペダンチック(1)であった。 (略)西洋の有名な小説のこう概(2)や短文が引用してあるので、欧米文学にも通じたような気になった。(「一冊の本」より) この頃、所いわゆる謂「〇〇講」もの、というのが盛んに出版され、流行したようです。こういう場合に、あまり衒てらわず、当時のベストセラーを挙げられるのが、清張という作家です。しかし、小説ではなく「研究」なのですか 松本清張は、「読むこと」によって作家となった、と言えるでしょう。決して恵まれた環境ではなかった少年期の清張が、唯一の矜きょうじ持としたのが、読書でした。 私の気持を支えてくれたのは、その頃の文学書であった。といって私には作家になろうとか、文士になりたいという気持はなかった。ただ、そういうものを読んでいることが単なる慰めだけでなく、何か一つの心の拠りどころといったものを感じさせた。(「実感的人生論」より) 高等小学校を卒業して、すぐに働き始めた清張は、仕事の合間のわずかな時間を読書にあてました。その頃手にしていたのは、当時出たばかりの岩波文庫や改造文庫、春陽堂文庫が主でした。 清張が読書に親しんだ、大正から昭和初期というのは、出版界も躍進した時期です。一般市民がこぞって文化・教養を求める風潮に応える形で、文学全集や文庫が刊行されました。 そういった愛読書の中から、 『小説研究十六講』を愛読書と公言して憚はばからなかった清張は、昭和55年の新装版刊行の際に、序の前文を書いています。 私は三十三歳のころまで乏しい蔵書を何度か古本屋に売ったことはあるが、この本だけは手放せず、敗色濃厚な戦局で兵隊にとられたときも、家の者にかたく保存を云いつけて、無事に還ったときの再会をたのしみにしたものだった。今も手垢にまみれたその本が私の書架にある。(「葉脈探求の人      ――木村毅氏と私――」より) 当館では、清張が愛読したであろう全集や文庫本などと共に、作家が生涯大切にした、『小説研究十六講』を展示しています。ら、決して読み易いとはいえない本です。にもかかわらず、清張が、これほどまでに魅了されたのは、この本によって創作の意欲をかき立てられたからにほかなりません。先に紹介した〈作家になろうとか、文士になりたいという気持ちはなかった〉という言葉からは、矛盾するようですが、いつか書きたいという志なくしては、『小説研究十六講』へのここまでの執着はないでしょう。 また、外国文学を読み始めた清張にとって、良い手引書ともなりました。著者の木村毅は、多彩な活躍をした人で、外国文学の翻訳者でもあり、「円本」の元祖にあたる「現代日本文学全集」の企画を、改造社へ持ち込んだアイデアマンでもありました。文芸hiroba 柳 原 暁 子北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Akiko Yanagihara松本清張 1987年フランスにて木村毅著『小説研究十六講』(大正14年 新潮社刊)清張アラカルト少年時代の愛読書――松本清張記念館の展示品から北九州市小倉北区城内2の3093(582)2761【観覧料】一般   500円( 団体・年長者利用証:400円)中・高生 300円( 団体:240円)小学生  200円( 団体:160円)【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)【休館日】年末( 12月29日~12月31日)Information(1)ペダンチック=学者ぶるさま  (2)こう概=あらすじ・あらまし・大略など