CulCul 9月号 2013 page 4/16

CulCul 9月号 2013

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概要:
北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4 核戦争とその後の世界というのは、ネビル・シュートの『渚にて』(1957年/日本での翻訳出版は翌年、翌々年には映画化された)が、その嚆こうし矢のようです。終末ものは、今やハリウッド映画の定番ですが、驚いたことに、スタンリー・キューブリック監督の、核戦争を題材とした映画『博士の異常な愛情』公開よりも、『神と野獣の日』の連載が一年早いのです。時代は東西冷戦の真っ只中でした。「キューバ危機」が起こったのは、前年の1962年。日本では、『鉄腕アトム』のテレビ放映が始まった年でした。原子力が、様々な形で、私たちの身近なものとなりつつありました。ちなみに、小説が連載されたのが、週刊『女性自身』だったというところも意外です(そのせいか、若い男女のロマンス 皆さんは、清張作品にSFがあるのをご存知でしょうか。『神と野獣の日』という小説です。本が絶版になって、長らく読むことのできない作品でしたが、2008年に、小説家・東野圭吾の推薦によって、角川文庫から復刊しました。オビには「僕の最大の掘り出しモノです。」とあります。 この小説が連載されたのは1963(昭和38)年。ある日、首相官邸に防衛省から直通電話が掛かります。在日米空軍司令部からの緊急連絡で、東京に向かって誤射された核弾頭ミサイルが飛んで来くるというもの。それも5基で、迎撃部隊を動員しても全てを落とすことはできないため、都心の壊滅は避けられません。首相は、苦渋の決断の末、この絶望的な事実を発表し、国民に知らせます。11年3月11日の東京は、小説で描かれたよりも整然としていて、都民の行動は世界から賞賛されたほどでした※。 冷戦は1989年に終結を宣言しましたが、冷戦時代に核戦争を回避したにもかかわらず、日本は原発事故で、三度めの被曝を経験してしまいました。 清張が『神と野獣の日』で描いた極限状態は、最後の結末で、私たちに、ある問いを突きつけます。 SFの宿命で、当時描かれた近未来は、すでに時代が追い越してしまいました。しかし、作品の警句は、今でも生きている気がしてなりません。場面もあります)。 さて、小説の内容に戻ります。あと一時間ちょっとで、東京はおしまいなのですから、人々はパニックです。皆、家族のもとへ帰ろうと、目の前のことを放り出して帰宅を始めます。そのため、道に人や車が溢れ、交通が混乱します。首相が報道に踏み切ったのも、「死の瞬間を家族といっしょに迎えさせたい」という気持ちからでした。しかし、帰宅は容易ではありません。作中、ある男が「おれは、こんな所で死にたくない。死ぬなら、女房と子供を抱いて死にたい。こんな、おれとは縁もゆかりもない他人と心中するのはごめんだ」と絶叫します。 これは、清張の戦争体験が反映された作品にも、描かれたモチーフです。『厭えんせん戦』という作品では、徴兵され、朝鮮に渡った〈私〉に、〈死ぬのならやっぱり畳の上だ。妻子にみとられて死ぬのが人間の最後の最上の幸福だ。その他の場所では死にたくない。まして戦場で死ぬのはいやだ〉と語らせます。 清張は、『神と野獣の日』で仮想した、核ミサイル着弾という極限状態を、かつての戦争体験と重ねています。現代の私たちにとって、それに匹敵する体験は、東日本大震災になるでしょうか。そう考えると、20文芸hiroba 柳 原 暁 子北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Akiko Yanagihara松本清張『神と野獣の日』(2008年 角川書店)東野圭吾の推薦により復刊した松本清張 1987年フランスにて清張アラカルト清張が警句として描いた近未来北九州市立松本清張記念館北九州市小倉北区城内2の3093(582)2761【観覧料】一般   500円( 団体・年長者利用証:400円)中・高生 300円( 団体:240円)小学生  200円( 団体:160円)【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)【休館日】年末( 12月29日~12月31日)Information※ 東京都では、2013年4月、東京都帰宅困難者対策条例が施行されました。災害時の帰宅行動の抑制を推進したもので、小説での帰宅を促す状況とは、異なるようです。催事情報を見る