CulCul 11月号 2013 page 4/16

CulCul 11月号 2013

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北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4見えます。ほかにも「義経千本桜」由来のニックネームを持つ男がいたり、「牡丹燈籠のお露」が引き合いに出され、江戸っ子たちの話題を攫さらう芝居は「皐さつきまつ需曾そがのたちばな我橘」。清張は演劇や古典芸能については、子供のころ父に連れられ芝居小屋に行ったとか、青年期に戯曲を読んだという程度で多くを語ってはいませんが、実は深い造詣を持つことが窺うかがえます。 松本清張記念館では古地図や「武鑑」など清張旧蔵の歴史資料の一部を展示していますが、清張は豊富な史料を読み込み、血肉としたうえで時代小説を執筆しました。『彩色江戸切絵図』は一年にわたって月刊誌に連載されましたが、掲載と歩みを共にするように作中の季節も移ろいます。東京育ちのジャーナリスト・吉野源三郎もこの作品で〈初はつうま午の小豆粥〉という江戸の習慣を知ったというほど。端々に織り込まれた文化は私たちに江戸情緒を伝え、時宜を得た年中行事や習慣は物語にリアリティーを与えます。 ところで六編の最後の『女義太夫』にはまた少し異なる面白さがあります。ときは水野忠邦による改革が一段落し芸事の灯が戻りはじめた天保末期。人気と美貌を誇る女義太夫語り・巴之助は、親子ほど年の違う男と数年越しの仲でしたが、若い与吉に心を移してしまいます。ところが巴之助の耳に、与吉と別の義太夫語り・秀勇との新たな噂が入ります。三角関係の果ての終章を、清張は「秀勇の家も、巴之助の家も、不忍池の雁の通る道筋に当っていた」と結びます。 〈不忍池〉と〈雁〉といえば、連想されるのは森?外の『雁』。『雁』はヒロインお玉が、やはり年の離れた末造の愛人の身にして若い学生・岡田に心惹かれてしまうという物語。彼女の家はまさに不忍池のそば。お玉の下働きの女はお梅といいますが、巴之助の下働きの女も同じ名が与えられています。末造と過ごしながらも岡田を想うお玉の心の動きを、巴之助もまたなぞるのです。 若い頃から?外を愛読し最晩年まで尊敬と関心を持ち続けた清張の、本歌取り※1のようなオマージュ※2が浮かび上がります。清張が潜ませた点と線を手繰りながらの読書も一興です。「武鑑」『彩色江戸切絵図』(講談社文庫)表紙清張作品再読『彩色江戸切絵図』 『彩色江戸切絵図』は、江戸の街を舞台にした六つの短編作品集です。 最初の物語は『大黒屋』。作中、姿を隠した女を探す留五郎の含みを持たせたセリフ「本郷は八百屋お七だから違うなア」に、問われた常右衛門は顔色を変えます。 なぜ留五郎はわざわざ「八百屋お七」に触れるのでしょうか。実は常右衛門は本郷に、加賀と繋がる大きな秘密を抱えています。〈お七の八百屋〉はその本郷にあってしかも加賀とゆかりが深い、つまり留五郎は〈お七〉を匂わせ言外に常右衛門を脅しているのです。歌舞伎や浄瑠璃で名高い「八百屋お七」のストーリーを知る読者にだけピンとくる仕掛けを清張は施しています。常右衛門の秘密、清張が〈お七〉に込めた謎とは何かまでは本稿では申しません。ぜひ『彩色江戸切絵図』を読んでご確認ください。 さてこのように清張は、歌舞伎や落語など古典芸能の片鱗を作品のあちこちに散りばめています。『彩色江戸切絵図』に限っても、二話目の『大山詣で』には落語の「大山詣り」が透けて文芸hiroba 小 野 芳 美北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Yoshimi Ono清張アラカルト北九州市立松本清張記念館北九州市小倉北区城内2の3093(582)2761【観覧料】一般   500円( 団体・年長者利用証:400円)中・高生 300円( 団体:240円)小学生  200円( 団体:160円)【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)【休館日】年末( 12月29日~12月31日)Information※1 有名な古歌(本歌)の一句もしくは二句を自作に取り入れて作歌を行う方法。※2 尊敬。敬意。また、献辞。賛辞。催事情報を見る