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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4中島京子『小さいおうち』文藝春秋小倉の森?外旧居任してきた主人公が、女中や雇人に難儀する話です。これは、?外の実体験に基づいており、『小倉日記』にも記されています。清張は、?外と女中の関係に興味を持ち、『?外の婢ひ』という作品を書きました。「婢」は女中のことです。『?外の婢』の主人公は次のように言います。〈ぼくは、小倉日記を読んでね、この三※ 樹亭の美人姉妹に興味をおぼえた。それと、?外が雇った女中だ。これは次次と代わって、ちょっとした女中太平記だ〉。 さらに清張のエッセイ『私のくずかご』では、次の逸話を紹介しています。〈谷崎潤一郎氏に、お手伝いさんのことを書いた「台所太平記」がある。/私は生前の谷崎氏とは何の縁故もなかったが、谷崎家のお手伝いさんの妹が私の家のお手伝いさんになっていたときがあった。どういう用事だったか忘れたが、あるとき、谷崎夫人から、そのお手伝いさんのことについて私の家に問合せがあった。ただそれだけである。あれがもう少し発展していたら、あるいはお手伝いさんのことから谷崎氏に何らかの交渉を持ち得たかもしれないとも思う〉。これを読むと、『台所太平記』に登場する妻・讃さん子こ が、愛情豊かに女中たちを切り盛りする姿を思い出します。清張も、小説の世界に触れた高揚感があったに違いありません。 ――さて、そろそろお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、この〝女中もの?を、ことごとく反転させたのが、悪魔のような家政婦が主人公の、清張作『熱い空気』ではないかと思うのです。ドラマ『家政婦は見た!』の原作と言ったほうがいいでしょうか。 先の『私のくずかご』には続きがあり、松本家が最初に雇った「お手伝いさん」について触れてあります。北海道出身で、働き者の十七、八歳の娘さんでした。彼女は、タクシーを停めるとき、通過する車全てに手を挙げてしまったのだとか。〈今でも、交通巡査のように手をあげつづけていたお手伝いさんを思い出す。五年前、彼女は釧路から手紙を寄こして、母になったと知らせてきた〉。 『熱い空気』からは想像し難いですが、実際の清張の「女中ばなし」は、『台所太平記』に倣って、温かいものだったようで、一安心です。 松本清張と〝女中もの? 中島京子著『小さいおうち』が、山田洋次監督により映画化され、話題になりました。 私も大好きな小説です。活字を読んでいても、昭和初期にタイムスリップしたような気分になれます。現代からのツッコミも秀逸で、最後には切ない結末が……。『小さいおうち』を書くにあたって、著者の念頭にあったのは、谷崎潤一郎の『台所太平記』をはじめとする、かつて文豪たちが書いた、女中の小説だったそうです。 従来、小説の中で女中は脇役でした。例えば、夏目漱石の『坊ちゃん』に登場する「清」などは、名・脇・役・といえるでしょう。しかし谷崎は、女中を主役にして『台所太平記』を書きました。これが、個性的な面々に、人情もあって、実に面白いのです。 実は、松本清張も、谷崎の『台所太平記』を気に入っていたようなのです。そもそも、文豪の「女中ばなし」といえば、身近なところに、話の種はありました。 森?外の『鶏』は、小倉に赴文芸北九州市立松本清張記念館北九州市小倉北区城内2の3 093(582)2761【観覧料】※( )内は団体料金一般   500円( 400円)  年長者利用証提示:400円中・高生 300円( 240円)小学生  200円( 160円)【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)Informationhiroba 柳 原 暁 子北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Akiko Yanagihara清張アラカルト注:三樹亭は小倉にあった西洋料理店で、のちのカフェー・ライオン、清張の芥川賞受賞祝賀会が行われた場所でもある。?外は〈三樹亭の女美貌を以て聞ゆ〉と書いている。松本清張『?外の婢』光文社