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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4研究の貴重な資料でもあります。ですが、それにも増して著者の手腕が発揮されているのは、思わず場面を想像して吹き出してしまうエピソードの数々でしょう。 その『夏目家の糠みそ』に、松本清張に関する「狸の出没する記念館」という文章があります。 といっても、当館に狸が出没した話ではありません。清張の没後、松本邸に行った末利子さんが、小倉に建設される記念館に遺品や家具が移されると聞いて、〈いっそここを記念館にして下さればよろしかったのに〉と残念がる話です。松本邸の庭に植えた胡瓜や茄子を狸が盗んだと聞いて、〈それにつけても夫人手作りの野菜を盗りに狸が出没する清張記念館がここにあったら、どんなに心なごむことだっただろう〉と書いています。 実際、杉並区からの要請もあったようですが、北九州市の熱意が勝り、現在の松本清張記念館建設と相成りました。こういった経緯を知るにつけ、北九州市に記念館があることの使命を考えずにはいられません。狸は無理ですが、猫なら出没していますので、どうかご容赦いただきたいと思っております。 清張は終生、森?外に関心を寄せました。〈?外と漱石とはよく比較される〉と、『両像・森?外』で清張も述べているように、「では漱石は?」とつい考えてしまいます。 清張が?外派なのは、私欲を殺して勤勉に生きた?外への共感と、小倉に居たことへの親しみからでしょう。一方、漱石に対しては、〈?外が漱石よりはるかに大人〉※1、〈漱石は私人である〉※2 という見方をしました。菊池寛に私ししゅく淑し※3た清張としては、芥川などに比べて寛が不遇だったこともあり※4、門下生に囲まれた漱石には親しみが持てなかったようです。 それでも、私の印象では、清張は『草枕』を漱石の作品のなかで一番気に入っていたのではないかと思います。〈『草枕』の面白さを理解するには……〉(「わたしの古典」)という具合に、時々『草枕』を引き合いに出している文章を見かけます。また、『迷走地図』には漱石の『彼岸過迄』を引用するなど、決して敬遠しているわけではないのです。 『老後に乾杯!』には、2017年新宿区に開館する「漱石山房記念館」(仮称)についてのエッセイも収録されています。「漱石山房」の復元は、末利子さんの父上・松岡譲の悲願でもあったといいます。しかし、著者はあくまで慎重です。そして、いつもの歯に衣着せぬ物言いで、ドンドン意見します。 末利子さんの迫力に、今から「漱石山房記念館」の開館が待ち遠しくなりました。 今年6月、作家の半藤一利氏を招いて、「第三十回松本清張研究会・発表会」を開催しました。節目の30回にあたり、各方面で活躍中の半藤氏にお願いし、母校・東京大学で開催となりました。 同氏は数年来、当館の「松本清張研究奨励事業」選考委員を務めており、また、かつて編集者時代に接した経験をもとに書かれた『司馬さんと清張さん』などの著書もあります。 慌ただしい会のなか、一冊の本をいただきました。半藤末利子著『老後に乾杯!』(2014年PHP文庫)です。 末利子さんといえば、半藤氏の奥様であり、夏目漱石の御令孫、漱石の長女・筆子さんと、小説家・松岡譲ゆずるのご令嬢、という目もくらむような家系ですが、ユーモアのある文章と軽妙な語り口が人気のエッセイストでもあります。 彼女の代表作『夏目家の糠ぬかみそ』(00年PHP研究所)は、身内から見た漱石の姿や、家族との想い出がつづられた、文学北九州市小倉北区城内2番3号093(582)2761【常設展観覧料】一般 500円中高生 300円小学生 200円【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)Information『老後に乾杯!』PHP研究所※1 松本清張・三好行雄 対談「社会派推理小説への道程」より引用※2 松本清張『両像・森?外』より引用※3 直接教えを受けていない人を師と仰ぎ学ぶこと。※4 菊池寛と一高の同級生だった芥川龍之介、松岡譲、久米正雄、成瀬正一らは、漱石の門下生となった。菊池寛は「マント事件」により一高を退学、一人だけ京都帝大に入学した。文芸hiroba 柳 原 暁 子北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Akiko Yanagihara清張アラカルト 猫ならぬ狸が結ぶ夏目家と松本家の縁『夏目家の糠みそ』PHP研究所