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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

7 CulCul 2014.October 今年3月の戸畑図書館内「宗左近記念室」開室に続いて、北九州市立文学館では今秋、第18回特別企画展「宙のかけらたち―詩人・宗左近展―」を開催いたします。それに先駆けて、宗左近の詩業のうち、『炎もえる母』と《縄文シリーズ》をご紹介し、本展覧会の見どころをご案内します。 まずは宗の詩をお読みください。「生かしておけない/わたしはわたしを/なぜならわたしは/わたしを生んだものを/殺してしまったのだから/生かしておけない/けれどもわたしは/わたしを殺さない/殺すつもりで殺さない/わたしを殺すことは/わたしを生んだものを/もう一度殺すことになるのだから/という理屈をかき抱いて/つまりわたしはわたしを殺さないで立腐れ/にして今日まできた」(『炎える母』(彌やよい生書房 1967年)「生かしておけない」より) 幾度も現れる「わたし」という語がまるで、「わたし」自身を責め、切り刻んでいるようです。1945年5月25日、東京は空襲に見舞われ、当時、東京帝国大学哲学科の学生だった宗は、上京していた母とともに被災しました。炎に取り囲まれた二人は「炎の一本道」を突破せざるを得なくなります。うなずき合い、手を強く握り駆け出しますが、途中でその手が離れてしまいました。地面に倒れこんだ母は身振りで伝えます。「行け」と。そして、炎の中に母を残し、宗は生き延びました。22年の後、その体験を詩として書いたのが代表作『炎える母』です。その言葉は悔かい恨こん、自責の念に切りつけられた、癒されえない詩人の心の傷であり、鎮魂の祈りでもありました。 また、縄文の文化、芸術に魅せられた宗は詩集『縄文』にはじまる作品群《縄文シリーズ》を手がけ、《縄文詩人》とも呼ばれました。そのきっかけは、岡本太郎の「縄文土器論」に衝撃を受けたことなどさまざまありますが、直接の契機は静岡県の骨董屋で縄文中期深鉢(写真参照)に出会ったことです。その出会いに、宗の心の内はざわつきました。先の戦争で喪うしなった、母、そして多くの友人たちへの思いとその土器の意いしょう匠と※ が宗の中で感応します。弥生に滅ぼされた縄文の死者たちと、宗の内面に住む死者たち(宗はこの死者たちを「わたしの縄文人」と呼んでいます)が呼応し、語り出したのです。それは詩のかたちをとった、死者への祈りとも言えるでしょう。 本展では空襲で母を喪った直後の日誌や、『炎える母』自筆原稿、末期の病床で綴った手帳など約200点を展示します。展示を通して生涯を追い、詩を中心に美術評論や翻訳などの文業を紹介し、ふるさと・北九州への眼差しを明らかにします。そして最大の見どころは、《縄文シリーズ》を書き始める契機となった縄文土器の展示です。宗が何を感じ、詩を書いたのか、縄文詩の源泉となった土器を前に、思いをはせていただければと思います。 詩は難しい、そうお思いの方も多くいらっしゃるでしょう。宗左近の詩は確かに難解です。宙ソラのかけらたち―詩人・宗左近展―北九州市立文学館 学芸員稲 田 大 貴Daiki Inada詩集『縄文』(思潮社 1978 年11 月)※ 美術工芸品などの形・色・模様などに工夫をめぐらし、できた装飾。デザイン。縄文中期深鉢「動きやまぬ眩めまい暈の定着」(宗左近命名)それは彼の詩が、私たちが認識する「現実」を超えてゆこうとしているからに他なりません。「現実」を超えた先にある「宙」から零こぼれてくる言葉、それは私たちに、「現実」の先を見せてくれる詩です。難しさに戸惑いながら、宙をのぞいてみませんか。【開催期間】2014年10月25日(土)~12月14日(日)※月曜日休館。11月3日、24日(月・祝)は開館、翌日休館。※10月25日(土)の展示室入場は10時30分以降【観覧料】大人200円 中高生100円 小学生50円【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)【お問合せ】北九州市立文学館 093(571)1505Information宗左近詩人・美術評論家・仏文学者。本名・古賀照てる一いち。1919 年5月1日、北九州・戸畑の牧山峠に生まれる。東京帝国大学哲学科卒業。法政大学で教鞭を執りながら詩作を行い、67 年、第三詩集『炎える母』で第六回藤村記念歴れき程てい賞を受賞。その他、100 冊に及ぶ著作がある。2002 年、北九州市民文化賞を受賞。04 年、チカダ賞(スウェーデン)を受賞。05 年には日本現代詩人会より「先達詩人」の顕彰を受ける。2006 年6月20 日逝去。催事情報を見る