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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

2敗戦前後を描いた『遠い接近』 清張の『遠い接近』が、新装版となって昨年から書店に並んでいます。 約千編にも及ぶ清張作品のうち、戦争体験を小説化したものは、決して多いとはいえません。その中でも本作は、山尾信治という主人公の、戦前から戦後の7年間をじっくり描いた長編とあって異色の一作といえるでしょう。 山尾は、印刷画工として自営し一家7人を養うのに必死でした。そんな彼にも召集令状が届き朝鮮半島に出征します。軍隊で経験する新たな秩序、内務班での私的制裁、そこで上手に生き延びることも必要でしたが、何よりも山尾の脳裡を占めていたものは、日本に置いてきた家族への責任でした。しかし、敗戦後やっとの思いで帰還した山尾は、大きな喪失を味わいます。誘われるままヤミ屋を手伝うなかで、戦後の混乱に乗じて暗躍する元軍人や、戦前からすると手のひら返しの態度で発言する役人らを目の当たりにします。「清張と戦争」 8月開催の戦後70年特別企画展「清張と戦争」では、清張が体験した戦争、描いた戦争に加え、現在の私たちにとってはもはや遠くなってしまった「戦争」当時の基礎的な情報についてもご紹介します。 例えば『遠い接近』に山尾の次のような台詞があります。徴兵を心配する妻に〈大丈夫だ。なにしろ、おれは第二乙種だからな。第二乙種というと丙種と同じだ。それに、おれはもう三十二だ。そういうのを兵隊にとるようになっては、日本もおしまいだよ。〉この言葉の意味については、徴兵検査の仕組みと、戦況とともに推移していった召集の様子を知る必要があるでしょう。70年もの年月は、「戦争」という特殊な状況を伝えることを、ますます難しくしています。読み継がれる戦争体験と記憶 また清張は、戦場での死を嫌い家族を恋う兵士の姿(「厭戦」)や、敗戦に伴う米軍派遣に備え慰安婦を選出する軍人と女性の心理を描く(「赤いくじ」)など、時代の圧倒的な勢いに踏み潰されたささやかな存在を掬い上げました。あるいは、軍事も含め近代日本の成り立ちに目を向けた作品(「夏島」「象徴の設計」「史観宰相論」)もあります。 本企画展では、これらの背景にある史実や史料、清張の考証について、できるだけ詳しく、分かりやすく、取り上げる予定です。 本展が、清張作品を通して戦争について考え、語り継ぐ契機となることを、心から願ってやみません。28専門学芸員 柳 原 暁 子 Akiko Yanagihara「清張と戦争」――読み継がれる体験と記憶――戦後70年特別企画展 戦後70年特別企画展「清張と戦争」【開催期間】8月1日(土)~12月23日(水・祝)※会期中無休【開館時間】午前9時30分~午後6時(午後5時30分までに入館)【観覧料】一般500円 中高生300円 小学生200円※こども文化パスポート適用あり。【お問合せ】北九州市立松本清張記念館093(582)2761Information松本清張『遠い接近』文春文庫「回想的自叙伝」―朝鮮での風景 清張直筆原稿特別企画展チラシのうりすくせりふ北九州市立松本清張記念館催事情報を見る