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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

4 数年前の流行語に「倍返しだ!」というものがありました。発端は人気のテレビドラマで、原作の小説もベストセラーになりました。主人公が理不尽な仕打ちに対し「やられたらやりかえす」と復讐を決意するときの決めセリフですが、共感するサラリーマンだけではなく小学生にまで流行ったとか。 清張作品にも復讐の炎に燃える人物は多数登場しますが、中でも長大で復讐が渦巻く物語は『西海道談綺』でしょう。 ところは作州勝山(岡山県)、若き藩士・伊丹恵之助は、不貞を働いた妻・志津を人里離れた廃銅山に連れ出します。ひと思いに斬殺するのかと思いきや、坑道跡に突き落とし、じわじわ苦しめた末に死んでもらおうというのですから、恵之助の怒りの深さたるや…。志津はひそかに救出されるのですが、陽の差さない真っ暗な地中で味わわされた死の恐怖と深い絶望により、髪は一晩で真っ白になり、肌もしわだらけの老女のものに変貌してしまいます。彼女もまた恵之助への深い恨みを抱いて生きることになります。 5年におよぶ連載の舞台は恵之助と共に岡山から江戸、そして九州・日田へと移り、隠し金山をめぐる権力闘争に愛憎が絡み合い、壮大な展開をみせます。勝山藩を後にした恵之助はまず、山陰道から中山道に入り、木曾路を通って江戸を目指す途中、奈良井宿(長野県塩尻市)で、大名行列同士のもめごとに遭遇します。両藩の意地がぶつかり合い、ついには責任者の切腹にまで及びかねない状況になっていました。恵之助は両者の顔が立つように機転を利かせてその場を治め、新しい人生を築く手づるを得るのです。 このもめごとを解決するカギとなったのが「お茶壺」でした。 毎年新茶の季節に、将軍家に納められるお茶が江戸まで運ばれます。往路は空の茶壺が東海道を通り、宇治からの復路は木曾路を経て甲州街道を経由しました。なにせ葵の紋を付け、将軍家の御飲料を載せた駕籠ですから、たかが茶壺とあなどることはできず、将軍一行と同様の敬意を払わねばなりません。さらに同行の茶坊主たちが威光を笠に着てなにかと威張ったり、わざと意地悪を仕掛けることもあったため、道中の宿場町はもちろん、一行に行き会ってしまった大名行列も緊張を強いられました。「茶壺に追われてトッピンシャン」とうたう童謡「ずいずいずっころばし」はここから由来するとも言われます。こんな「お茶壺」エピソードから清張は物語を紡ぎ出します。 茶壺道中は、1956年に発表した初期の短編作品『蓆』にも登場します。やはり奈良井宿でお茶壺一行に因縁を付けられてしまった小藩が舞台です。清張はこの茶壺道中のことは「まだ九州にいるころから興味を持っていた」と語っており、53年に小倉から上京するさいには、京都で途中下車し、宇治の老舗の茶商でわざわざ取材しています。このときはあまりはかばかしい収穫はなかったようですが、奈良井宿にも早い時期に取材に訪れています。さらに71年から連載した『西海道談綺』では、より細かく描かれることとなるのでした。 復讐相手を追って追われて、そして多数の謎をめぐって、西に東にと壮大な物語が展開する『西海道談綺』。文庫本(新装版)で4冊にも及び、実に読み応えのあるボリュームです。秋の夜長に手に取ってみませんか。文芸hiroba 小 野 芳 美北九州市立松本清張記念館 専門学芸員Yoshimi Ono清張アラカルト松本清張『西海道談綺』1~4巻 表紙(文春文庫)はやかごむしろふくしゅうな ら いじゅく清張作品再読『西海道談綺』さいかいどうだんき※  手がかり、糸口。北九州市立松本清張記念館北九州市小倉北区城内2の3【開館時間】午前9時30分~午後6時(入館は午後5時30分まで)【休館日】年末(12月29日~31日)【常設展観覧料】一般500円 中高生300円 小学生200円【お問合せ】093(582)2761Information