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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

5 CulCul美術hiroba 小 松  健 一 郎美術館へ行こう!北九州市立美術館 学芸員Kenichiro Komatsu アートの対義語といえば何でしょうか。「美術」に対して「醜術」? 「芸術」だから「無芸」?  あるいはアートを創造行為と捉えて「破壊」という答えも考えられるかもしれません。 西洋美術において、伝統的にアートと対置されてきたのは「自然」です。画工や彫刻家たちの技芸によって生み出されたものは、神が創造した自然に比べて劣っているとか完全でないと低く見られることもあれば、逆に、優れた技術こそが自然をしのぎ得るなどと言われることもあります。こうした意味合いのアートは、「artificial(人工的な)」といった単語の中に残っています。 通常、人工物とは人間によって作られたものを指しますが、それが植物だとしたら、自然と人工物のどちらに分類されるでしょうか。植物なのだから自然に決まっていると思われるかもしれませんが、品種改良や形の選別によって製品化された野菜などは、人の手が加わっていない純粋な自然とは言い切れません。さらに、近年のバイオテクノロジーの発達によって、私たちはより短期間に植物の形や性質をコントロールできるようになってきています。その結果生み出された植物は、自然と人工のあいだに位置していると言えるでしょう。 現在、北九州市立美術館分館で開催中の展覧会「樹のいのち、画家のまなざし」に出品している現代アーティスト石塚千晃は、こうした自然と人工の境界、あるいは生物と人間の関係性をテーマにしている作家です。例えば図1は、川べりに自生した野生のニンジンとスーパーで売られている商品としてのニンジン、そして実験室で培養されたニンジンの細胞塊(カルス)を写真によって比較したものです。いずれも生物学的には「Daucus Carota」という学名を持つニンジンであることに違いはありませんが、人間が介入する度合いやその方法によって大きく姿形を変えています。会場では作家本人がニンジンを採集したり、実験室でカルスを培養したりするプロセスも映像で紹介されます。 この作品において石塚は、決して自然に対する人間の行為を非難しているわけではありません。もちろん、そこから生物を操作することの危険性を読み取ることもできますが、同時に私たちは、特殊な条件下で生まれたカルス(図2)にも、生命力や美しさを感じます。また、お店で売られているニンジンはサイズや色合いまでもが均一化されていますが、量り売りが主流の海外のスーパーでは形も大きさもバラバラである方が一般的です。つまり、商品としてのニンジンには、日本人独特の美意識が反映されているとも言えるでしょう。自然の中に生きる小さくも力強いノラニンジンの葉、商品として均一に整えられたニンジン、切り取られたかけらから複雑に増殖していく細胞組織。人間はそれぞれに違った美を見出すことができるのです。 石塚の作品には生命科学の先端技術が用いられていますが、その試みは私たちの日常とかけ離れた専門家の世界にだけ属しているのではありません。今回は、生きたコケに流れる微弱な電気の電位差を音に変換した作品や、会期中も培養が続くニンジンの切片も展示されますが、それらに通底しているのは、誰もが一度は考えたことのある「生命とは何か」という疑問なのです。さらに、一作家が自分で細胞の培養ができるほどアートとサイエンスが接近している要因の一つとして、昨今の3Dプリンターの普及に見られるように、テクノロジーが急速に私たちの身近な存在になっていることが挙げられます。こうした新しいタイプのDIYの発展を背景に、一個人がバイオテクノロジーを応用した作品は、まさに現代ならではのアートと言うことができるでしょう。ニンジンの美    ――自然と人工のあいだ図1 石塚千晃《Portrait of Daucus Carota》(部分)2014年上段から野生のニンジン、培養された細胞塊(カルス)、スーパーで販売されているニンジン図2 石塚千晃《〈Form〉Synthesis》(部分)2013年 培養されたニンジンのカルスの例フォームシンセシスInformation樹のいのち、画家のまなざし【会場】北九州市立美術館 分館(リバーウォーク北九州5F)【会期】11月14日(土)~12月13日(日)※会期中無休【開館時間】午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)【観覧料】一般600(500)円 高大生400(300)円小中生200(100)円 ※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金障害者手帳提示の方は無料【お問合せ】093(562)3215しゅうじゅつダウクスカロタせっぺんむ げい2015. December催事情報を見る