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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

3 CulCul 2016.May演劇hiroba おおつか えみこ演劇の街は、いま大塚恵美子演劇事務所 代表Emiko Otsuka魅力的な人形劇 ネットサーフィンをしていて、面白い話題に出合った。『ひょっこりひょうたん島』の登場人物たちは、実はみんな「死者」という設定だったというのだ。原作者の一人である劇作家の井上ひさしが、2000年に行った講座の中でそう語ったそうだ。作品の世界観を固めるための〝裏設定?だったらしい。 若い読者のために解説すると、『ひょっこりひょうたん島』は1964年から69年まで、NHKで放送された人形劇である。魅力的な人形造形に、奇想天外なストーリー展開で大人気となった。調べてみると膨大な続編やスピンオフが制作されていることからも、その人気のほどが想像できる。もちろん、放映当時、視聴者は、冒頭に述べたような「登場人物全部が死者」という裏設定があるなどとは全く知らなかったわけだが、しっかりとした世界観、社会に向けた風刺性、象徴性が大人の視聴にも十分耐えたということだろう。 今年の1月には宮沢章夫、山本健介の脚本、串田和美の演出という豪華な顔ぶれで、人形劇でなく、本物の人間が演じるミュージカル版が、キャナルシティ博多で上演されたのも記憶に新しい。井上ひさしが作品に滑り込ませた「毒」は、50年の時を経て、まだ劇的な花を咲かせている。 個人的には、かわいい人形が、優しく語りかけ、易しく物語を説明してくれる人形劇よりも、人形であるからこそストレートに人間の本質を描けるようなものが好きだ。そして、そんな人形劇を見せてくれるパフォーマーが北九州に居る。「Divadlo501 」だ。 北九州在住のパフォーマー谷口直子がチェコ共和国プラハで活動する美術家であり人形作家でもある林由未の人形を操り、物語を紡ぐ。Divadlo=ヂバドロとはチェコ語で〝劇場・演劇?という意味の言葉だそうだ。3月には、福岡市の「トヨタハートフルプラザ福岡」で新作『イジーとまぬけな悪魔』を上演した。 谷口直子によって、テンポよく、表情豊かに語られる物語は、きれいごとの勧善懲悪でもないし、やみくもに勇気を要求しもしない。人間の気持ちの矛盾をしっかりと見せつけてくれる。表情豊かなのはパフォーマーだけでない。一般的な「かわいい」からはかけ離れているかもしれない(私にはひどく魅力的に思えるのだが)造形の人形たちが次第に愛しい存在へと変わっていく。大人にも、いや、大人にこそ観てほしい人形劇だ。 大人に観てほしい人形と人間の緊密なパフォーマンスがもう一つ。2015年10月、八幡東区の高見神社で行われた「高見芸術祭」に参加した『百鬼ゆめひな』である。2005年、第13回北九州演劇祭に参加した「百鬼どんどろ」こと岡本芳一の流れを継いで、作品を創り続けている。〝ひとかた?と呼ばれる等身大の人形と人間が繰りひろげる幽玄な世界。観ているうちに、どちらが人間か、どちらが人形かが分からなくなる瞬間がある。精力的に全国で公演を行っているので、機会があればぜひ一度観ていただきたい。 チェコで人形劇が盛んになった理由には諸説あるが、その一つに、こんな説がある。チェコがハプスブルグ家の支配下にあった時代、ドイツ語の使用を強いられていた。子ども向けの芸術だということで人形劇にのみチェコ語の使用が許された事から、人々は人形劇の劇場に集り、チェコ語での表現を楽しんだそうだ。痛烈な社会風刺も含んだ作品も多く上演されたという。 人形を単なる「かわいらしいおもちゃ」とするのか、ニンゲンよりももっと雄弁な表現者とするのか、パフォーマーの技量と、何よりも哲学によるのだろう。後者のような人形劇をもっともっと観たい。『イジーとまぬけな悪魔』人形Divadlo501『イジーとまぬけな悪魔』公演写真ヂバドロみ