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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

3 CulCul 2016. July演劇hiroba おおつか えみこ演劇の街は、いま大塚恵美子演劇事務所 代表Emiko Otsuka演出家という仕事 2016年5月12日、演出家の蜷川幸雄が亡くなった。視覚に訴えるダイナミックな演出が海外でも高く評価され、「世界のニナガワ」と呼ばれることもあった。寺山修二や、唐十郎などと同じく、1960年代に日本の演劇の流れを大きく変えたといわれる「小劇場演劇」の第一世代であり、商業演劇を多く手掛けるようになってからも、次々と新しいチャレンジを続けていた。 北九州でも、その作品は多く上演されている。毎年「彩の国シェイクスピア・シリーズ」として良質の舞台を届けてくれているほか、今年も北九州芸術劇場で、4月に『蜷の綿-Nina'sCotton-』が上演予定だった。 『蜷の綿』は、岸田國士戯曲賞を受賞した新進気鋭の劇作家、藤田貴大(「マームとジプシー」主宰)とタッグを組んでの作品。蜷川幸雄本人の人生を藤田が戯曲化し、〝蜷川幸雄演出版?と〝藤田貴大演出版?の2作品を同時に上演するという魅力的な企画。しかし、16年1月、蜷川の体調不良による公演〝延期?が発表された。ツアーで回るはずだった各劇場の公式ホームページには「早く回復して劇場に戻ります」というメッセージが掲載されている。人間としての蜷川幸雄をも知ることができただろう貴重な作品である。今後、何らかの形で上演が実現することを切に願う。 役者に厳しい怒号を浴びせ、「下手くそ!」と灰皿を投げる、という演出家像を広めたのもこの人だった。かく言う私も若いころ、演出家とはそんなもんだと勘違いして筆箱を投げたりしていたこともある。まったく恥ずかしい黒歴史だ。 そんな若気の至りの時期を過ぎ、長いこと、演出という仕事に携わっていて感じるのは、演出家は実は作品創りに関わる人たちの中では実に孤独な存在だということだ。演出家同士で話をすると、そう感じている人が案外多いことを知って少しうれしかった経験がある。作品を磨き上げていく過程で、役者チームにも、テクニカルスタッフチームとも、ある程度距離を置かねばならない場合もある。 そんな演出家としての仕事に新たに足を踏み入れた人がいる。5月に上演された「劇団青春座」の第227回公演『若戸大橋物語』(5月21日・22日/北九州芸術劇場中劇場)において、看板女優の馬淵理麻が初演出に挑戦したのだ。公演のたびに何らかの新しい試みをし続けるこの老舗劇団の新作は、馬淵の初演出以外にも、初めて青春座に作品を描き下ろす葉月けめことのタッグで、若戸大橋に人生を架けた男たちの物語を女性演劇人が立体化していく、という挑戦的要素満載なものだった。また、北九州出身の歌手、冨永裕輔に主題歌を依頼するなど、さまざまな人を巻き込みながらの芝居創りがさすがにうまい。 そういった新たな試みの中、演出の意図をくみ、そのイメージを具体化しようとする、劇団としての一体感が普段より、より強く感じられたように思う。今後の馬淵演出作品にも注目したい。 演出家は孤独だ。しかし、大変魅力的な仕事でもある。蜷川幸雄の訃報に接し、SNSにあげられたメッセージの多くから、彼に対する愛がたくさん感じられた。その愛情となれ合うことなく作品を研いだ姿勢は見習うべきものなのだろう。一演出家として、心からご冥福をお祈りするとともに、自分も、背筋を伸ばそうと思う。「劇団青春座」 第227回公演『若戸大橋物語』チラシ『若戸大橋物語』練習風景