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概要

北九州市芸術文化情報誌「CulCul」・ 「かるかる」  発行/北九州市、(公財)北九州市芸術文化振興財団 出版事業課

5 CulCul 2016. September デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』に次のようなシーンがあります。モーガン・フリーマンとブラッド・ピット扮する二人の刑事がある殺人事件を捜査しますが、なかなか手掛かりが得られません。しかし被害者の妻だけが、壁に飾られている抽象画が事件前とは逆さまになっていることに気付きます。絵を外してみると、壁面に次の事件のヒントとなる指紋が隠されていたのです。ドキドキの謎解きシーンですが、「抽象画なら逆さまになっていても気付かない」ということがこの場面の前提となっているのではないでしょうか。 今年5月に開催された北九州市立美術館と北九州芸術劇場のコラボ演劇『モネ、逆さまの睡蓮』では、当館所蔵のモネ《睡蓮、柳の反影》(図版)がかつて逆さまに展示されていた、という噂話を取り上げました(写真/詳しくは本誌5月号特集)。この作品は抽象画ではありませんが、画家の代名詞とも言える睡蓮が、晩年特有の粗いタッチで描かれています。都市伝説的な噂話が広まるにはそれだけの理由があるものですが、この絵の場合もやはり、逆さまになっても分からない、と思われてしまいそうな抽象的な描写が原因と言えるでしょう。 抽象画の創始者とも言われるカンディンスキーは、ある日アトリエに戻ったとき、何を描いているのかも分からない一枚の絵に目を奪われます。ところがよく見てみると、それは自分で描いた絵が横向きになっていただけなのでした。そこからカンディンスキーは、何を描いているかではなく、色彩や構図のリズムによって美しさを感じさせる可能性に気付き、抽象画の誕生に向って試行錯誤を始めたと言われています。このエピソードでは、絵が逆さまではなく横向きになっていたわけですが、向きが変わっても絵が成立するのではないか、という部分にモネ作品の噂と通じるものがあります。 実はカンディンスキーとモネのつながりはこれだけではありません。カンディンスキーは28歳のときにモスクワでフランス絵画の展覧会を見ました。そこで展示されていたモネの作品について、彼は後にこう書き残しています。「ところが突然、私は初めて絵というものを見たわけだ。その絵が積みわらを描いたものということを私に教えてくれたのはカタログであった。私は積みわらであることが識別できなかった。この識別できぬという点、私は困った。これほど不明瞭に描く権利は画家にはない、とも思った。私は漠然とこの絵には対象が欠けている、と感じた。〔中略〕それでも徹底的に明らかになったこと、それは、私のあり方とあらゆる夢を越えてゆく、以前に私に隠されていた、予想だにせぬパレットの力であった」(西田秀穂訳『回想』〈カンディンスキー著作集4〉、美術出版社・2000年・19ページ)。現在のわたしたちにとって「分かりやすい絵」の代表とも言えるモネの《積みわら》について「これほど不明瞭」と評されていることは意外に思われるかもしれませんが、モネの作風が当時の人々にとっていかに衝撃的だったのかを物語っています。モネ作品との出会いもまた、カンディンスキーが抽象表現の可能性に気付くきっかけとなりました。 このことをもってモネを抽象画の先駆とするのは行き過ぎかもしれませんが、さらに後年、ポロックやロスコなど、アメリカの抽象表現主義の画家たちにも強いインスピレーションを与えたことは疑いありません。とかく「難しい」「分からない」と捉えられがちなアートですが、カンディンスキーを見習って、とまどう気持ちもそのままに、まずは作品の色彩やタッチを楽しんでみてはいかがでしょうか。北九州芸術劇場×北九州市立美術館 コラボ演劇こぼれ話Information日本語版刊行15周年記念 リサとガスパール展【会場】北九州市立美術館 分館(リバーウォーク北九州5F)【会期】8月6日(土)~ 9月25日(日)※会期中無休【開館時間】午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)【観覧料】一般1000(800)円 高大生700(500)円 小中生500(400)円※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金障害者手帳提示の方は無料年長者施設利用証提示の方は2割減免【お問合せ】093(562)3215図版 クロード・モネ《睡蓮、柳の反影》1916~19年写真 演劇『モネ、逆さまの睡蓮』2016年美術hiroba 小 松  健 一 郎美術館へ行こう!北九州市立美術館 学芸員Kenichiro Komatsuうわさ